優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第10章 夏の訪れ
「逃げ出そうとしてたけどね」
「……だって、嫌だったんだもん」
「海行きたいって言いながら泣いてたね」
わたしは頬を赤らめる。春ちゃんは意地悪だ。
俯いたわたしの頭を、1度だけ撫でた。
わたしはその、優しい手と微笑みを、正面から受け止めて、また俯いた。
「……帰ったら優にきいてみな」
「うん」
春ちゃんは、優がどう言っていたかは教えてはくれない。もしかしたら、海に行く話は、2人の間ではしていないのかもしれない。
昨日の優は厳しかった。
もしかしたら……ダメって言われちゃうのかもしれない。
あまり、前向きには考えられなかった。
だけれど今年の夏休みは、帰る家、居ていい家があるだけマシだ。そう思ったら、落ちた気分もどん底ではなかった。