優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第10章 夏の訪れ
「……海、行ける?」
全員が箸を止めた。
優のことを恐る恐る見つめる。優は真っ直ぐとわたしのことを見ていた。
その場に、なんとなくだめだと言われそうな雰囲気が流れる。たった数秒でも、この空気から逃れたかった。
「……連れていく」
一言だけ、呟くように言うと、優は味噌汁を啜った。
「え……?」
わたしは驚いて春ちゃんを見る。
春ちゃんは笑いながら、ご飯を口に含んだ。
まるで最初から、優がそう言うのをわかっていたかのようだった。
優は、味噌汁のお椀で顔を隠しているけれど、絶対に笑っている。
少し緩んだその場の雰囲気に、わたしだけが置いてけぼりにされて、箸を動かせずにいた。
「咲、箸。止まってるよ」
ゆっくりと、手にした箸を動かす。
だけど、どう動かしていいかわからなかった。わたしは目の前のご飯をそのままにして、延々と広がる青と、陽気な日差しを思い浮かべる。