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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第10章 夏の訪れ

わたし、海に行けるんだ……。
実感が後になって追いついていく。
青くて、きれいで、大きくて。
泳げるんだろうか……?
行ったことも、見たこともない海に思いを馳せると、箸じゃなくて、足がパタパタと動き出す。

あ、いけない。これは悪い癖。

そう思った時には遅かった。春ちゃんがわたしの事をじっと見つめている。

「咲」

静かに名前を呼ばれて、ぴたりと足を止める。

「ご飯」

言葉の含みはいろいろある。
『ご飯中だよ』とか『ご飯食べなよ』とか。
でも、『ご飯』の一言で、全てが伝わってきてしまう、春ちゃんの圧力はすごい。
想像の中の海から、一気に現実に引き戻される。
ご飯を口に運ばずにはいられない。

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