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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

「反省しろ。『苦しめばいい』なんて。発破かけるにしても言い過ぎだ。見捨てられたと思ったら、咲は心閉ざすぞ」

優は俺の方を見て、咎めるように言った。
反省してないはずがなかった。自分で出した言葉は、自分がいちばん分かっている。
口にした瞬間から、ずっと後悔していた。

「ごめん」

思ったより冷静じゃなくなっていた。
早く、咲がこの治療を受け入れて、自分でできるようになっていけば、俺は治療に携わることがなくなる。
でもそれは、咲のためじゃなくて、自分のためだったことに、終わってから気づかされる。
俺が、咲の嫌がる顔や苦しむ顔を見たくないから。だから、早くひとりでできるようになることを望んだ。
咲の、まだまだ未熟な心を置いてけぼりにしてしまったことは、反省してもしきれない。

咲はきっと、俺の言葉に傷ついた。
もう傷つけなくていいように、優と俺で保護したのに。その矛盾した自分の行為を振り返って。吐きそうになる。
そんな俺の内心を、知ってか知らずか、優が救うように声をかけた。

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