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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

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翌日からわたしと角村さんは、放課後、中庭に繰り出す。2人で作業しているうちに、仲良くなるには時間はかからなかった。
いつの間にかお互いを『いっちゃん』と『さっちゃん』で呼び合うようになっていった。

「ねーね、いっちゃん、わたしを助けてくれた、もう1人の男の子って、なんて名前?」

わたしといっちゃんは、朝顔のプランターの前で枯れた花の後に実った種を回収する。
『緑のカーテン』と称して、1階に置いたプランターは、2階へ伸びる紐を伝ってびっしりと蔓を伸ばしていた。
手の届く範囲で、種を摘むのが、今日の任務だ。乾燥した茶色の袋を指で潰すと、ぱらぱらと直ぐに種が溢れ出る。採った種は、入れ物に保管する。
朝顔はまだまだ花のつぼみもあって、ツルも元気だ。井田先生によると、10月末まではこのままらしい。青々とした朝顔の葉っぱは、名残惜しい夏の空気を残していて、夏休みを思い出すような色をしていた。

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