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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

呆れながらも、優は勘が鋭い。なにか考えている素振りを見せたわけではないのに、すぐに答えに辿り着いてしまった。

「……ん? その子、あれか、去年春斗がクラス持ってた子か?」

「あぁ、よく覚えてるね」

「……忘れるわけがなかろう」

言いながら、優は手に持ったマグカップを見つめた。去年のことを、思い出しているのかもしれない。

去年の今頃、それはそれで大変だった。
……学年1位の顔面を持つ樫木由貴は、まさしく、学年で1番の隠れ問題児だったのだから。
久々に生徒に手を焼いた。
中学生の割には大人っぽいが、まだあどけなさが残る由貴の横顔を思い出す。
どうにか2年に上げられて、良かったと思う。
手を焼かれた由貴は、焼かれた分だけ俺に懐いていた。

「彼が、始業式の時に咲を助けた。元々、よく気づく子ではあるから。咲が腹痛でうずくまってる時に、由貴が真っ先に俺のところに走ってきて教えてくれたから、そうだと思うんだ」

「咲もなんだか……こそばゆい落ち方をしたな」

優はお茶をもう一口啜る。なんとも言えない顔をしたのは、咲の心境をありありと想像したからだろう。
俺はその様子を見て、にっこりと口角を上げる。

「咲っぽいというか。……そんなわけで。優、少し安心してるでしょ? 俺は、咲には申し訳ないけど、安心してるよ」

「……春斗。だからお前、鬼って言われんだぞ」

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