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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

優は正直だ。言い当てられた内心を、否定することはあまりない。否定されたところで、顔によく出るから分かりやすいんだけれども。

「へへ。鬼上等。かわいい娘はまだ渡せないなぁ」

「当たって砕けろか」

「砕ける前提でいる優も酷いよ」

「……まぁ、半々だ。傷ついて欲しくないと思うのも親心か」

「それは同感。複雑な気持ちだねぇ」

沈黙が訪れる。リビングにはお茶を啜る音だけが響いていた。

……見守るしかないかな。

お互いがそう思っていたに違いない。今の咲には、どうなったとしても角村さんがいる。あの子はきっと、咲の面倒もよく見てくれるだろう。

俺は学校にいながら、咲の手助けには線引きをしている。
中学生の恋なんて繊細そうなものは、そりゃもう当然、大人の管轄外だ。見守るくらい、いや、なんなら見て見ぬふりくらいがちょうどいい。

「……助けを求めてきたら、手を差し伸べようか」

……これがきっと、俺と優ができる最大限のことだ。

「そのつもりだ」

優は頷いた。能動的には何もしない。
俺と優は咲の初恋に関して、影から見守る協定を結んだ。

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