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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第11章 落し物に気づく時

ゆっくりと、握りしめた手を開く。
鍵を、樫木くんが拾ってくれたという。

……なんで、わたしは。樫木くんと聞くと、あの綺麗な目と、助けてくれた時の顔を思い出して……思い出して、こんなに苦しくなっているのか。

苦しく……。なんでなんだ?



「さっちゃん、一緒にかえ……え、わっ。大丈夫?」

片付けを終えたいっちゃんが、わたしを追ってやってくる。驚くいっちゃんを見て、自分の表情を理解した。知らないうちに、泣いていたらしい。
自分でもなんで泣いてしまっているのか、わからない。

胸が苦しい、からなのか。
なんでこんなに苦しくなっているのか。

体操着の袖でごしごし拭うと、咄嗟に笑顔をつくった。

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