優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第12章 ふたりの憧れ
放った声は、いつもより大きく、自分の焦りに気づかされる。
俺の声色をほぐすように、小さく気の抜けた声が、響いて、返ってきた。
「んあ……優……おかえり」
気のせいではなかったことに、ほっとする。はっきりと声が聞こえた方に顔を向ける。
ーーそこはダイニングテーブルの下だった。
カウンターに繋がったテーブルの下。その隅っこに、咲はいた。
「……なんでそんなところにいるんだ」
ほっとしつつ、呆れながら覗き込むと、咲ははっとしたように体育座りをして丸くなった。
怯えたような目をして、俺の目を見つめては目を逸らす。
「……心の準備してたの、治療やだから」
そう言われて、明日が月経の予定日だったことを思い出す。
咲は咲で、治療を受け入れようと必死らしい。
しかし、心の準備とやらをしながら、テーブルの下で寝落ちしていたようだった。
苦笑いをしながら、
「ほら、出てこい」
と声をかけてみるも、
「準備中なの」
と首を横に振るだけで、一向に動こうとしない。