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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第12章 ふたりの憧れ

洗面器を口元に抑える春ちゃん。
体を支えながら、背中を擦り続ける優。

たった一口飲んだだけなのに、胃は怒ったように『まだ吐け、まだ吐け』と言ってくるようだった。もう酸っぱいものしか上がってこなくなって、その苦しさに涙が滲む。

その様子を見ながら、優は言った。

「点滴で落ち着いたのは一時的だったな。熱は下がらんし、月経の腹痛はあるし……座薬使うか」

ざやく……?
肩で息をしながら、聞いたことない単語に不安を覚える。
優は、吐き気が収まったわたしを横にすると、薬の袋から何かを取りだして、準備を始める。

「大丈夫、すぐ終わらせようね」

顔を強ばらせたわたしを見て、春ちゃんが言った。すぐ終わらせる、と聞いて、何かが確実に始まることを悟る。
怖くなって、近くにあった春ちゃんの手を力なく握った。

「大丈夫、大丈夫」

春ちゃんが、手を握り返しながら、少し困ったように笑う。
頭をゆっくりと撫でられて、安心したところに、優が戻ってきた。

……この後、全然大丈夫ではないことになる。

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