テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第12章 ふたりの憧れ

転がった箸を、ぱっと樫木くんが拾う。

「はい」

樫木くんが箸を差し出す。

「あ、あ……の、ごめんなさい、ありがとう…………」

使っていた箸を拾わせてしまうなんて、申し訳なくて、俯いた。

お礼を言うなら、今しかない。

樫木くんがこの場からいなくなってしまう前に……。そう思って、なんとか顔を上げる。

「あの、それだけじゃなくて。始業式のときと…………あと、鍵」

「鍵?」

樫木くんが首を傾げた。忘れてしまっていたようなので、ポケットから猫のチャームを取り出して見せる。

「これ。先週、拾ってくれたよね? ……ありがとう。2回も助けてもらっちゃって」

それを見て、思い出したように樫木くんが笑った。

「……そうだった。井田先生に預けたんだ。ちゃんと、君に渡って良かった。……井田先生、ちょっと意地悪いとこ、あるから」

激しく共感したが、縦に何度も振りそうになった首を1回でどうにか止めた。

「井田先生に聞かれたら大変だよ」

いっちゃんが小さい声で言いながら笑う。わたしといっちゃんはその事に関しては前科があるので、口を閉ざした。お互いに笑い合う。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ