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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第12章 ふたりの憧れ

井田先生が十分に遠くへ行ったのを見計らって、いっちゃんが言った。

「ねぇ、さっちゃん……言おうかどうか迷ってたけれどさ……」

「う、うん……」

改まって小さな声で言うので、身構えてしまう。

「昼から様子おかしいよ」

「んー……やっぱり……?」

右の手首を握りしめた。熱が帯びているような気がする。……ずっと普通にしているつもりだったけれど、いっちゃんにはバレていたみたいだ。
昼休みのあとから、ぎゅっと胸が締め付けられて、苦しかった。

「なんていうか……苦しくて。樫木くんのこと、考えると。前々から、ここら辺がすごく……」

バレているなら、正直に言ってしまえと思って、呟くようにそう口にしていた。胸をぐるぐると撫でながら、俯く。
いっちゃんはその正体がわかるようだった。ゆっくりと口角を上げる。

「さっちゃん、それはね」

さっちゃんが、軽く息を吸う。
なんとなく、次に出てくる言葉の破壊力が怖くて、息を止めて言葉を待った。

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