優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第13章 定期検診のお知らせ
『病院嫌いでも心配なら連れてきな。澤北も井田も家にいるとは言え、咲ちゃんの体は、もちろん咲ちゃんだけの体じゃないんだから』
俺は早乙女先生に言われたことを思い出していた。久しぶりに強めにそう言われて、保護者と医者の間を彷徨ってしまった。
早乙女先生はやはり、1枚上手だ。
その早乙女先生がなんでもない風に言う。
「……咲ちゃんさ、恋してるんだね」
言いつつ、カルテの整理をする早乙女先生を、俺と春斗は同時に見た。
……とんでもないものを見た、といった表情をしてしまったのは、反射だ。その手の話にはまだ耐性がない。早乙女先生が吹き出すのとほぼ同時に、目を逸らした。
「2人して、そんな顔しないの。治療中、その子のこと頭の中にあるみたいだよ。3ヶ月前までは幼児みたいだったのにね」
笑いながら言う早乙女先生は、少し楽しんでいるようだった。
なんでもない風に言ったのは、俺と春斗が動揺する顔を見たかったからかと気づき、まんまとのせられたことに、内心、溜息をつく。
……まったく、油断も隙もないし、まだまだ弄ばれていることに少し腹立たしくなって……苛立っている自分に対して苦い気持ちが湧く。
春斗は少し笑いながら、それに応えた。