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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

……わたしたちがそれを飲み込んだタイミングは一緒だった。
いっちゃんの横顔は、不安そうな顔から、キラキラとした笑顔になっていく。
何か楽しいことをみつけたみたいなその笑顔が、すごく眩しい。
井田先生はその笑顔に、「楽しそうでしょ?」と笑いかける。

わたしは、浮かんだ疑問をそのまま口にしていた。

「……今までは、活動費、どうしてたんですか?」

答える井田先生の声は、身も蓋もない。

「活動もなにも、言ってしまえば僕の趣味。半分くらいは自腹切ってたし、植物の苗なんかは、理科教員の裏技を使った。でもいまは君たちがいる」

「それってつまり、動植物部の存続はわたし達にかかってるってことですか?」

動植物部。いっちゃんの口からサラッと出てきた単語を聞き逃すはずがない。その言葉は初めて出てきたにも関わらず、しっくりしすぎて突っ込む隙もなかった。

「角村さん、ちょっと大袈裟だけどだいたい合ってる」

苦笑いを浮かべながら井田先生はいっちゃんを見た。しかし、否定はしない。いっちゃんは、きらきらした目で井田先生を見返す。

「……要は、挑戦だ。このミッションの結果がどうあれ、動植物部は無くならないから安心してほしい。ただ、活動の幅を広げるには、それなりの資金が必要ってこと。学校から認められれば、少しばかり資金がおりて、来年もっといろんな作物をつくることができる。今まで僕の趣味の範囲を越えなかったけれど、今は、白河さんと角村さんがいる。2人がいろんなことをしたいと願うのであれば、文化祭への出店はいい経験になると思うよ」

ゆっくりと、井田先生はわたしたちの顔を見ながら話していた。さらっと『動植物部』と言っているあたり、少し気に入ったらしい。

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