優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第14章 文化祭
「それに、これを機に部活の存在を知ってもらえば、興味を持った生徒が、仲間になってくれるかもしれないしね」
仲間が増えることは、わたしたちとしても嬉しい。最初は気晴らしに、井田先生と2人で活動していて、自然と居場所になっていた中庭。
いまはいっちゃんという友だちが1人増えて、次は部員が増えるかもしれない。
一抹の不安はあったが、前向きな気持ちの方が強かった。
「できるかな?」
井田先生が、わたしたちの顔を覗き込む。
「「できます!!」」
わたしたちは声を揃えて答える。
井田先生はその表情を見て、満足そうに頷く。
「そんじゃ、よろしく頼むね」
そういうと、わたしたちに背を向けて歩き出した。
「え、先生は?」
向けられた大きな背中に、思わず声をかけた。
井田先生は振り向いて、陽光のようににっこり笑う。その笑顔とは裏腹に、井田先生はいつだってスパルタだ。そんな事実を忘れていた。
「僕は手伝うけれど、あくまで手伝うだけよ。それにこういうのは生徒同士で頑張った方が楽しいでしょ」
ウインクでも飛んできそうな雰囲気だけど、消えかけた不安が募り出す。
わたし、料理あんまりできないけど、いっちゃんは大丈夫だよね……?
そんな気持ちでいっちゃんを見ると、いっちゃんも苦笑いを浮かべていた。
あ、これはピンチ。
雲行きが怪しいとは、まさにこの事。
「家庭科室の使用許可は取れてるから、明日から放課後そっち使う時は、僕から鍵を借りてね」
手をヒラヒラと振って、井田先生は昇降口に吸い込まれていく。