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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

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それから3日経ったある日。
わたし達はとりあえず、井田先生によって放課後、家庭科室への出入りができなくなって、中庭の作業もお休みになった。
そんなこんなで、放課後、暇を持て余している。

飽きもせず、サツマイモマフィンのレシピを見ているいっちゃんに、わたしは尋ねた。

「いっちゃん、お腹大丈夫だったの?」

「……大丈夫だったよ? 昨日の定期検診で、優先生にも言われたんだけどさ」

パラパラ本をめくるいっちゃんは、ケロッとした表情で顔を上げる。にこっと笑った後に、遠い目をして、その顔が不機嫌にくもった。

「……そういえば、ひっさしぶりに怖い顔だった。『本当に? 吐いたりしてないか?』って」

震えるように首を振る。
わたしも、怖い顔の優を想像して、いっちゃんと同じように震えた。
たしかに、お腹を壊した時の優は、怖かった。
『怒らないから言え』なんて、嘘だったなぁと思い出す。

「いつもより念入りにいろいろ聞かれて、なんか、入院してた時のこと思い出した」

話しながら、いっちゃんの表情はころころ変わる。わたしは首を傾げた。

「入院してた時、なんかあったの?」

いっちゃんが本を閉じてにっこり笑った。

「1学期に入院した時ね」

「うん」

「熱が出たから2泊3日で検査入院って聞いたの、でも」

いっちゃんは少しだけ、目に悲しみを滲ませる。

「熱は全然下がらないしさ、検査もすぐ終わるって言うのに3日経っても4日経っても帰れなかった。検査結果聞いたら、体の状態がよくないのがわかった」

いっちゃんは、今も、病気と闘っている。
ころころと変わる表情の中に、悲しみや怒りが混ざるのを見て、わたしはそれを実感せずにはいられなかった。

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