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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

「結果良くなかったから、入院が1ヶ月に引き伸ばされて……。学校にも行けないし、安静にしなきゃいけなかったから、ベッドからもほとんど出られないくって。ほんとに嫌になっちゃった。少し体調が回復してきたときに、点滴引きちぎって逃げた」

思いきったいっちゃんの行動に、目を丸くする。
いっちゃんはすぐに言葉を繋げた。

「でもね、すぐに優先生に見つかって叱られた。『逃げたところで変わらないのわかってるな? 自分の気持ち、ちゃんと説明してみろ』って」

想像しなくてもわかる。海連れてかないって言われた、夏前がものすごく遠く感じた。

「……そういう時の優、怖いのすごくわかる」

冷静でまっすぐで、それでいて諭すような眼差しに見つめられると、嘘はつけない。

「ね。無表情でさ、すんごい怖い目するよね。でも、ちゃんとそれで自分の気持ちを初めて聞いてもらえて、わたしはすごく嬉しかった。嫌だと思っていることとか、逃げたい理由とか、全部聞いてくれた」

一言一句、逃さず話を聴く優は、容易に想像できた。

「……親には、なかなか弱音吐けなくてさ。特に……ママには。もう悲しい顔させたくないから」

いっちゃんが笑う。
その大人びた表情が、少し眩しく見える。いっちゃんの闘病は、わたしが思ったより重くてつらくて、苦しいものなんだと知る。
いっちゃんが、医師を目指す理由になるくらいに、病気はつらいものなんだと思った。

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