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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

水を打ったような静けさの教室。
その、沈黙を破るように。
廊下から、ペタペタとゆっくり歩く靴音が、2人分、わたし達のいる教室に近づいてくる。
その音は、扉の前で迷いなく止まるとゆっくりと扉が開いた。

「おーい、2人とも〜ここにいたのか」

ゆっくりとした足音に見合った間延びした声が教室に響く。ひょっこり顔を出した井田先生に、わたし達の声が揃った。

「「井田先生!」」

「いやー、またせたねぇ。僕がいないと家庭科室使えないんじゃつまらないと思って、助っ人連れてきたよ」

そう言って、井田先生はいたずらっぽく笑う。

「助っ人……?」

「誰ですか?」

わたしといっちゃんが口々に言うのを聞いて、井田先生は満足そうに、更ににっこりと口角を上げる。
顔を見合わせていると、井田先生はたっぷりと間をとって、勿体ぶるように言った。

「2年3組の」

その瞬間、何かとても嫌な……いや、変な、そんな予感がした。胸がざわざわと騒ぐような、そんな感じ。

…………大体、そういう時の勘は当たる。




「樫木くんです」





井田先生の声とともに入ってきたのは、あの、樫木くんだった。

サラッとした前髪が、夏から少し伸びて目にかかるようで、俯いた彼の瞳を少し隠していた。

わたしといっちゃんは、樫木くんを見つめたあと、2人でもう一度顔を見合わす。恐らくわたし達は同じ顔をしていたんだと思う。
もう一度、樫木くんを見直したときに、彼は少し焦った様な表情をした。

井田先生はというと、そんなわたし達3人の表情を1人ずつまじまじと見つめては、これまたにんまりと微笑みを浮かべていた。
……まるで、サプライズ成功と言わんばかりに。

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