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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

「いや……俺もよくわかんないんだ、お菓子作り手伝ってって言われて、ここに連れてこられて」

「……井田先生ってそういうとこあるよね」

「うん……でもお菓子つくるの、趣味っていうかなんていうか」

「すごい。それは期待できる。ね、さっちゃん」

「え!……あぁ、うん……!」

突然話を振られて、何度もまばたきをしてしまう。
焦ったように返事をしながら、わたしもいっちゃんと樫木くんの輪に加わった。

いっちゃんがお菓子作りの経緯を説明し、前回の失敗を身も蓋もなく話して、樫木くんがそれに笑顔で応じる。
その横顔を間近で見て、胸がぎゅっと苦しくなるような感覚になってしまった。
ドキドキしているのがバレないように、笑いながら俯く。
でも、様子が違うことはすぐにいっちゃんにバレてしまう。

いっちゃんに肩をポンと軽く叩かれて、はっとして顔を上げた。

「じゃ、今日は解散! 材料もないし!」

あっけらかんと、いっちゃんが言い放つ。
その顔は『さっちゃん、作戦会議しよう』と、これまた意気揚々と、いたずらっぽい笑みを浮かべて、わたしと目を合わせていた。
いっちゃんの言いたいことは、表情だけでわかる。わたしは頷いてそのどちらにもこたえるように少し笑った。

「わかった。もし、いまレシピあったら、貸して。1回つくってみたいから」

予想外の樫木くんの言葉に、わたしもいっちゃんも、目を丸くした。

「わ! ほんと? すごいね!」

「うん。どうせ暇だし」

樫木くんは、いっちゃんから手渡された本を受け取ると、丁寧に自分のリュックサックに入れた。

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