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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

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文化祭まであと2週間。

翌日から、放課後は家庭科室に籠ると、お菓子づくりに没頭していった。

樫木くんのお菓子づくりの腕前は確かなもので、作ってくると言っていたマフィンは桁外れでおいしかった。

「……え? これほんとに樫木くんが?」

ひと口、口にしたいっちゃんが、目を見開いた。
サクサクと香ばしくて甘い匂いに誘われるように、わたしもかぶりついた。

外はサクサク、中はふんわり。
紛れもなく、わたし達が最初に頑張ろうとしていたものの、完成系だった。
樫木くんは少し照れたように笑いながら、同じくマフィンを食べる。

「……うん。つくるの久しぶりで……少し失敗したけど。本当はもっとふっくらすると思うよ」

「どこが失敗してんのさ……」

これでまだ上を突きつめるなんて。

「おいしい……。これ、すごくおいしいね」

わたしはマフィンの優しい味にほっとしていた。自然と顔がほころぶ。

「ありがとう。食べた後にはなっちゃうけど、今日は一緒につくろうと思って」

言いながら、腕まくりをして手を洗う樫木くんが、頼もしかった。

「よろしくね、樫木先生!」

いっちゃんがにっこりと笑う。

「先生だなんて。改まらないで」

……こうして、文化祭に向けて、3人でのスタートをきる。



3人で過ごす放課後の時間は、信じられないくらい楽しかった。樫木くんに教えてもらいながら、マフィンをつくる。

わたし達は何となく仲良くなって、次第にわたしも樫木くんに緊張しなくなっていって、お互い名前で呼び合うようになった。

……でも、名前を呼ばれるとドキっとしてしまう。なんか、熱を出した、あの夢のときみたいで。

「咲、もっとよく混ぜてみて。その方がしっとりするから」

「……わかった!」

自分の気持ちを誤魔化すように、泡立て器を早く動かした。

「一華、このサツマイモちょっと切り方粗くない?」

「だって硬いんだもん!」

いっちゃんが不器用に包丁を動かす。
それをのぞき込みながら、由貴くんは言った。

「……指、切んないようにね」

わたしは、由貴くんに生地の硬さを確認する。

「由貴くん、こんなもんでいい?」

「おっけー! いいと思う」

何日か試作品を重ねてつくっていくと、売り物にできそうなマフィンがつくれるようになった。



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