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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

由貴くんはそんなわたしといっちゃんを見て、耐えきれずに口にしていた。

「一華……休もう。文化祭、無理しなくても」

言いかけた由貴くんの声を遮るようにして、いっちゃんがありったけの大きな声を出した。

「やだよ!!!! 初めてなの!! こうやって……こうやって友だちと何かして、学校で楽しい思いができたの……!!」

尖って返ってきたその声に驚いてしまい、背中を擦るわたしの手が止まってしまう。由貴くんが俯いた。

「わたしだって、いっ……いっしょに……なんで……わたしだけ……いつも……あきらめなきゃ、いけないの……? わかんないでしょ……こんな気持ち」

ここ2週間、3人で一緒に過ごした時間が、わたしの脳内にとめどなく流れ出す。
そのどのシーンも、いっちゃんは笑っていた。楽しそうに、はしゃいでいた。真剣だった。

たったの2週間。だけれどわたし達3人は、この時間がこれからも続くものだと疑わなかった。
……もちろん、文化祭だって、当たり前のように3人でむかえられると思っていた。

「わかんないわけ…………」

由貴くんが誰に聞かせるでもなく呟いた。本当に、本当に小さな声で。
その横顔は、たしかに、傷ついた顔をしていた。

いっちゃんの嗚咽がだんだんと酷くなって、呼吸が浅くなる。

わたしたちは、いっちゃんが、病気と闘っているその現実を、目の当たりにした。

「っはぁ、はぁ、うっ……っはぁ、ゲホッ 、ゲホッ、ゴホッ」

どうしよう……いつものいっちゃんではなくなる。早く早く……戻って。

いっちゃんの背中を強く擦りながら、危機感を覚えてナースコールに手をかけたときだった。



「どうした?」




病室の入口から声がして、振り返る。
白衣を着た優が、そこに立っていた。

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