優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第14章 文化祭
「……俺、多分、人と違うんだ。他のヤツが女の子のこと好きになる代わりに、男が好きになるっていうか……ゲイ、なのかも」
思いがけない言葉に、一瞬、息を飲む。
噛み締めるように話す由貴くんは、不安そうな表情を浮かべていた。
わたしは、言葉を受け入れるのに精一杯だった。
聴くことが、いまのわたしに唯一、できることだった。
由貴くんが、静かに、祈るように言葉を繋げる。
「友だちに打ち明けたら、気持ち悪いって言われてさ。男友達だったんだけど……自分も恋愛対象にされるって、思ったのかもしれないね」
話しながら、息を大きく吸った。
心が、苦しいのかもしれない。
その横顔を、静かに見つめた。
「普通じゃないって、自分でわかってる。前に告ってきた女の子、正直に言って振ったら、気持ち悪いやつだって噂されたりもして……広まっちゃって」
由貴くんは、俯いた。言葉を選んで、迷いながらも、少しずつ、打ち明けるときの緊張が緩んでいくようだった。
「そんで、中学入ってからは少し……いや、かなり、気持ちが荒れてた。なんで人と違うんだろうって、自分の体を痛めつけるようなこともして……井田先生に本気で怒られたこともある」
「井田先生に……?」
いつか、いっちゃんが言っていたことを思い出した。井田先生に、怒られている子を見た、と。
それが由貴くんであったことが、ぴったりと繋がる。
「……うん。咲と一華と仲良くなって、こんな風に楽しく学校で過ごせたこと、初めてなんだ。だから、一華の気持ちは痛いほどわかるというか。ごめん、こんな話。……引いたよね?」