優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第14章 文化祭
由貴くんが、わたしの顔を覗き込む。
胸が、チクリ、と痛んだ。
なんでだろう、なんで……痛いんだろう。
でも、由貴くんの話を受け止めようとしていた気持ちに嘘はない。由貴くんがつらいと思ったこと、しっかり受け止めたかった。わたしの話も、聴いてくれたように。
「引かない。話してくれて、ありがとう」
そう言って笑うと、また胸が痛くなった。
由貴くんが少しだけ笑って、ほっとしたような、泣きそうな顔をした。
缶に残っていたココアを、飲み干すように傾ける。
わたしは、由貴くんに対して抱えていた自分の気持ちを、どうすることがいいのか、わからなかった。由貴くんの横顔を見ながら、『好き』という気持ちに気づく度に、胸が痛む。
だんだんと、街のあかりが灯り始める。
刻一刻と、空から夜が降りてくる寸前の街を見下ろしながら、わたしは静かに心に決めた。
言ってしまおう。そう思った。
もう胸の痛みを無視することができなかった。
「由貴くん、わたし…………今、伝えたいことがある。聴いてもらっても……いいかな?」
決心しても、気持ちと裏腹に、声が震える。
伝えたらどうなるんだろう……考えてもわからないことだけが、そこにくすぶっている。
「うん」
由貴くんが、わたしに向き直って、小さく頷くのを確認すると、大きく息を吸った。