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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭




「……由貴くんのこと、好きだ」





由貴くんの目が大きく見開かれる。
思ったこと心にあることを、懸命に言葉にしようと、息をした。

「始業式で助けてくれた時から……。大事なこと、話してくれた後に、ごめんね。いつか、この気持ちを伝えたかった。でも伝えた上で……どうしたいとも考えられなかった。だから伝えるだけなんだけれども……」

ここで終わりにしよう、そう考えていた。
わたしの、恋としての『好き』は。
でも新しい気持ちの『好き』なら、由貴くんも受け取ってくれるんだろうか?

伝えたら、胸の痛みが少しだけ軽くなる。
苦しかった息が、少しだけ楽になる。

大丈夫、大丈夫だ。わたしは大丈夫。

由貴くんが微笑んで、わたしの目を見て言ってくれた。

「……ありがとう」

綺麗な瞳をしっかり見つめ返すと、思わず口にしていた。

「手を……握ってもいい?」

言ってから、変な意味に取られたかもしれないと思い、慌てて言葉をつけ加える。

「なんていうか、そういう意味じゃなくて……」

「うん、いいよ。わかってる」

落ち着いて頷く由貴くんに、ほっとした。
差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。その手がとても温かい。由貴くんが、ゆっくりとわたしの手を握る。
不思議と緊張はしない。お互いの孤独を重ねるようだった。

「由貴くん、ひとりじゃないよ。わたしも、いっちゃんもいる。……わたしは今も、由貴くんのこと好きだ。この気持ちは……さっき言った、好きとは、多分……違うけれど」

「うん。ありがとう、大丈夫。文化祭、頑張ろう。一華の分まで」

由貴くんが、力強く頷いた。
2人でいっちゃんのことを想った。
文化祭まで、あと3日。

しばらくそうしていると、屋上はすっかり暗くなって、お互いの横顔が薄い光に照らされていた。
わたしは、じわじわとぶり返す胸の痛みに、気付かないふりをした。



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