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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第14章 文化祭

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病院の前で由貴くんとわかれた時、外はもう闇が降りていた。

「また明日」と、笑顔で手を振ってはみたが、胸は酷く痛む。

今すぐにでもいっちゃんと話がしたかったが、由貴くんの秘密のこともあるし、なにより、いっちゃんの体調が万全ではない。

今までどれだけ、いっちゃんに支えられてきたのか、いやでもわかる。
その自分の弱さも、情けなかった。




家に帰るまでに、なんとか気持ちを落ち着けたくて、遠回りして帰る。どれくらい歩いていたのかわからない。
少しは痛みがなくなってきた。
ようやくそう思えたタイミングで、家の前につく。

帰ってくると既に、玄関の電気はついていた。

「…………ただいま」

言うより先に、春ちゃんがすっ飛んできて、俯いたわたしの顔を覗き込む。
春ちゃんの方が先に帰っていたらしい。

ぶり返しはじめた胸の奥の痛みが、ズキズキと、ここにいることを主張する。

「咲……! 先に帰ってると思ったらいないから、心配してたんだよ。今日は早く帰りなって言ったはずだよね?」

春ちゃんの声に、怒気が含まれた。
心配かけてしまったことが、今になってわかる。

しゃがみこんで両手を握られる。春ちゃんは、わたしの言葉を待っている。その顔はいつになく険しくて。

でも、なぜかほっとしている自分がいた。

握られた手が、温かかったからかもしれない。

「……ごめんなさい」

絞り出した声。耐えきれず、ポタッと、春ちゃんの手の甲に、わたしの涙が落ちた。

肩が震える。
次から次へと、堰を切ったように流れ出る涙は、止めることなんてできなくて、体がどんどん熱くなっていった。


「春ちゃん…………」


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