優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第15章 文化祭(後編)
3
いっちゃんが居ないまま、文化祭の当日を迎えることになるなんて、わたしたちは夢にも思わなかった。
いっちゃんはあのあと、病状が少し悪くなって、面会もできずにベッド上で安静にしなくてはいけなくなったらしい。
泣いていたいっちゃんの背中が、わたしと由貴くんが見た、文化祭前最後の姿だった。
優から伝言を授かったり、伝言を頼んだりしていたけれど、いっちゃんと話せないことが何よりも寂しかった。
だから…………。
「一華から。頑張れって」
家を出る前に、優がわたしに握らせたのは、小さなお守り2つ。
いっちゃんの手作りだって、すぐわかった。
すごく、嬉しかった。
優は、少し呆れたように苦笑いする。
「無理するなって言ったら、どうせもう出られないの決まってるんだから、無理してでも作るって」
なんともいっちゃんらしい言葉。その言葉に、背中を押される。
涙が出そうになって、制服の袖でごしごし目を擦ったら、優が頭を撫でてくれた。
いっちゃんはいない、由貴くんへの気持ちは割り切ったつもりでゆらゆらと揺れたまま。
そして、いっちゃんにこのことを話せないまま……。
不安を少しでも和らげるかのように渡されたお守りを、ぎゅっと握りしめる。
「いっちゃんに……いっちゃんに、ありがとうって伝えて。文化祭、いっちゃんも一緒だよって」
「あぁ。確かに伝えておく」
出かけに、優がもう一度、わたしの頭を撫でた。
「この土日で調子戻ったら、一般病棟に移れるから、そしたら、一華に会いにおいで」
わたしは大きく頷くと、家を出る。
しんとした澄んだ空気。
雲ひとつない秋晴れが、真上に広がっていた。
いっちゃんが居ないまま、文化祭の当日を迎えることになるなんて、わたしたちは夢にも思わなかった。
いっちゃんはあのあと、病状が少し悪くなって、面会もできずにベッド上で安静にしなくてはいけなくなったらしい。
泣いていたいっちゃんの背中が、わたしと由貴くんが見た、文化祭前最後の姿だった。
優から伝言を授かったり、伝言を頼んだりしていたけれど、いっちゃんと話せないことが何よりも寂しかった。
だから…………。
「一華から。頑張れって」
家を出る前に、優がわたしに握らせたのは、小さなお守り2つ。
いっちゃんの手作りだって、すぐわかった。
すごく、嬉しかった。
優は、少し呆れたように苦笑いする。
「無理するなって言ったら、どうせもう出られないの決まってるんだから、無理してでも作るって」
なんともいっちゃんらしい言葉。その言葉に、背中を押される。
涙が出そうになって、制服の袖でごしごし目を擦ったら、優が頭を撫でてくれた。
いっちゃんはいない、由貴くんへの気持ちは割り切ったつもりでゆらゆらと揺れたまま。
そして、いっちゃんにこのことを話せないまま……。
不安を少しでも和らげるかのように渡されたお守りを、ぎゅっと握りしめる。
「いっちゃんに……いっちゃんに、ありがとうって伝えて。文化祭、いっちゃんも一緒だよって」
「あぁ。確かに伝えておく」
出かけに、優がもう一度、わたしの頭を撫でた。
「この土日で調子戻ったら、一般病棟に移れるから、そしたら、一華に会いにおいで」
わたしは大きく頷くと、家を出る。
しんとした澄んだ空気。
雲ひとつない秋晴れが、真上に広がっていた。