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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第15章 文化祭(後編)


学校に着くと、もう既に文化祭の準備が始まっていた。

午前中でマフィンを焼きながら売りさばくのを、由貴くんとわたしと、それからいっちゃんの代わりに井田先生が手伝ってくれるらしい。

とはいえ、当日のマフィン作りは由貴くんと2人でしなくてはならない。
今までやってきただけあって、家庭科室でマフィンの準備は滞りなく行われていく。

「咲、材料、こっちの先につくっといてくれる?」

「了解、あ、由貴くん、分量はこれで大丈夫?」

「うん、大丈夫。売りながら焼きたてで作っていく感じでいくから」

「おっけー!」

気まずさがなかったわけではない。
由貴くんへの気持ちは揺れたままだったし、いっちゃんの病状は心配だった。

でもだからこそ、2人で、いっちゃんの分もと思う気持ちは強かった。




文化祭が始まる、少し前。

「由貴くん、これ、いっちゃんから。お守り」

「……! 一華、大丈夫なのか?」

由貴くんはお守りをまじまじと見つめると、そう言った。
優から伝えられたことを、由貴くんにも伝えると、今度は困ったように笑って、お守りを握りしめていた。

「病棟移ったら、お見舞い行こう」

「うん、いっちゃん喜ぶね」

顔を見合わせて笑ったら、丁度、井田先生もやってきた。

「おまたせ、おまたせ。今日は完全にお手伝いみたいなもんだからね。おふたりさん、角村さんの分まで頼むよ〜」

「「はい!」」

井田先生がわたしたちの頭をぽんぽんと撫でる。

2人揃って頭を撫でられたことは、前にもあって……。
いっちゃんが倒れた日の、あの心細い病院の廊下を少しだけ思い出して、チクリと胸が痛んだ。




こうして、文化祭がスタートする。


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