優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
夕飯前に、春ちゃんと喧嘩した。
いっちゃんが作ってくれたお守りを体操着のポケットに入れていたら、春ちゃんが洗濯してしまったことから始まった。
わたしがポケットに入れていたのが悪い。
でもその壊れてしまったお守りを、春ちゃんが勝手にゴミ箱に入れてしまったことに、酷く腹を立てた。
「……なんで壊れたからって捨てるの?! わたしにひとこと言ってくれてもいいじゃん!」
ゴミ箱の中から見つけたお守りを握りしめたわたしが、目にいっぱいの涙を溜めて、春ちゃんを睨む。
珍しく、春ちゃんが深いため息をついて、イラついた様子を見せた。
「ポケットの中身ちゃんと確認しろっていつも言ってるよね? 何回目だと思う? それに、お守り、ティッシュに紛れてたよ。……また洗濯物ティッシュまみれだし。大事ならちゃんと自分で管理しなっていつも言ってるよね?」
多分、わたしの方が悪い。
だけれどなんだかイライラが止まらなくて、徹底抗戦になった。
「悪かったですね、ちゃんと管理できなくて。すいませんでした、反省してます、でも大事なものだってわかってて捨てるなんてひどい」
「こら、咲! その謝り方はないんじゃないの? 咲が入れてたティッシュに紛れて大事かどうかわからなかったんだよ。文句言うなら洗濯くらい自分でまわしな」
洗濯カゴを目の前にひとしきり言い合って、わたしが先に逃げた。
春ちゃん相手に口喧嘩は得策ではない。
謝ったものの反省など微塵もなかった。
だって腹を立てていたから。
部屋へ逃げようとするわたしの手首を掴んで、春ちゃんが言った。
「薬。飲めなくなるから夕飯は食べて」
いつもより低い声。最低限の会話。
振りほどいてダイニングテーブルにつく。
半分ほどご飯を食べて、薬を飲んで、リビングのソファでふて寝した。
ご飯を残したこと、いつもは何か言うのに、春ちゃんもずっと黙ったままだった。