優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
無言で2人でご飯を食べた後、優が帰ってきて、ピリついた空気を察したようだった。
でも、優は何も言わず。
優は春ちゃんと普段通りに話をして、ご飯を食べた後、風呂から上がったわたしに学校でのことを聞いてきた。
春ちゃんとわたしが異様なまでに話をしない。
その空気の中、リビングで本を読み始めた。
耐えかねたわたしは、部屋に籠って、勉強を始める。こういう時は数学だ。
何も考えずに問題と向き合って、とにかく大量に問題を解く。
23時、ぴったりその時間に、部屋の扉がノックされる。
「入るぞ」
いつもは優と春ちゃんがそろって来るけれど、今日は優だけ。
「何してた?」
きかれて、振り返りもせずに、「数学」と答える。
優は、いつの間にかわたしの後ろにいて、頭をひとつ撫でると、呟くように言った。
「そこ、問3、間違ってるぞ」
問題を解いていた、手を止める。
ミスを指摘されて、少しむくれる。
わたしは正確に問題を解くというより、むしゃくしゃしてたから問題を解いていただけで、だからこそ指摘されたのが癪に障った。
「……勝手に見ないで」
ああ、こんな言い方したくないのに、モヤっとした気持ちが胸の中を支配する。
そんなわたしのことをとがめるでもなく、優はなんでもないように言った。
「……何があったんだ? 春斗と」
止めていたペンをまた走らせる。
春ちゃんが、悪い。でもわたしも、悪い。
伝えるか、伝えないか、伝えるか、伝えないか……。
長いこと沈黙していたら、優が言った。
「……春斗も意固地なんだよな。今日はもう遅いから、明日にでも仲直りしとけよ。おやすみ」
それだけ言うと、部屋を出ていってしまう。
もう少しだけ話を聞いて欲しかったような、でもそんなことは言えなくて。
「……やめた、寝よう」
ペンを放り出すと、ベッドに横になった。
だけれど、いつまで経っても眠気は来なくて……。