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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

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寝室に、優が入ってきた。
咲の所へ行ってきたらしい。

「咲、勉強してた、数学」

「……」

咲が、何か考え事をして、嫌になると数学の問題をめいっぱい解くことを知っていたから、何も言えなかった。

「春斗、許してやれ。……家事、大変だし、春斗がいないとこの家回んないし、俺も春斗には頭が上がらん。いつも助かってる、ありがとな。でも……」

「優、変な宥め方しないで」

「……悪い」

「怒りすぎた。わかってる。咲、前に家の鍵学校で無くしたこともあって。大事なものの管理、下手なんだよなぁ……」

それと今日はなんだか虫の居所が悪かった。

滅多に切らさなかった食材の賞味期限は切らしてまうし、仕事では無駄な会議が多い日でもあった。予定していた授業はいまいちだったり、学年主任から仕事を押し付けられたりと、散々だった。

……くたくたに疲れて帰ってきて、洗濯回したらティッシュにまみれて……うんざりしてしまって、咲のお守りを間違って捨てたら、言い合いになった。

踏んだり蹴ったり、更に1発殴られる、くらいの散々さを、1日の終わりに振り返ったら、笑えてきてしまった。

よくもまあ、こんな不運を、一日に詰め込めたものだと、自分でも感心してしまうくらいに。

……不運のバラエティーパック、という言葉が頭に浮かんで、笑い声が漏れる。

「……なに笑ってんだ、大丈夫か?」

「いや、ごめん、なんでもないんだ、あんまりにも運がないから、ふ……『不運のバラエティーパック』なんて言葉が浮かんで……ツボに入っただけ」

呆れたように優が笑う。心配して損したって、顔に書いてある。

「はぁ……なんじゃそりゃ」

心底わけが分からないというような表情の優がおもしろくて、よりいっそう深めのツボを刺激されてしまった。

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