優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
平然を装って、優がいる寝室のドアを開けた。
でも咲の部屋の様子を思い出して、なんだかやっぱり後ろめたさとか焦りとかいろんなものが心に渦巻いて、後ろ手にドアを閉める手が震えた。
これも……親心なのか……と妙な気持ちになる。
優は、読んでいた本から顔を上げた。
「……寝てたか? 早かったな」
それだけ言うと、もう一度、本に視線を落とす。
「仲直りは明日か……」と呑気に呟く優に、俺は爆弾を落とすことを決めた。
1人だけ平和な顔をされては困る。
「……優、変なこと聞くけどさ」
「ん? あぁ」
「中学生の時とかにさ……部屋でひとりでしてて、そこに親が入ってきて慌てる、みたいなイベントあったりした?」
1拍、間を置いて、優が本を閉じる。
突然何を言い出したのかと、怪訝な顔をして俺を見ていた。
「……それをイベントって言うな。なかったとは言えない」
優は正直だ。否定したところで何ともない話なのに、正直に答えるところが律儀で、ちょっとだけおかしくなってしまう。
……戸惑いながら、今見た光景を、口にした。
「あのさ、咲がさ……寝てたんだけど。ベッドの下に、パジャマのズボンと下着が……落ちてんのよね」
「は?!」
珍しく優が驚く。それだけの衝撃があるのだ。
咲がひとりでしているところには、遭遇しなかった。
咲の部屋の光景……それだけでも、やはり十分にイベントなのである。
「いや、だから多分……ひとりでやったのかなって……」
お互い複雑な表情を浮かべて、一瞬、黙りこくった。優が、ベッドから抜け出すと、早々に部屋を出た。
「明日の朝、話を聞く。場合によっては、明日の治療は無しでもいいかもしれない。……とりあえず、起こさないように連れてきて、ここに寝せるか」
「……了解」
判断を優に任せて、頷いた。
優は躊躇いながら、そっと咲の部屋へ入っていく。
なんであれ、いつもの治療とは違う。咲の意志では初めての、乙女の秘め事なのだ。詰めは激甘だったけど。
咲は起きたら慌てふためくだろう。
目覚めたその瞬間から、緊急で強制の取り調べは、否応なく決行される。