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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

4

朝。窓から差し込む光に違和感を覚えた。
薄目を開けて、見える天井。


……わたしが横たわっていたのは、優と春ちゃんの部屋の大きいベッドだった。



右には優が、左には春ちゃんが。

枕元の時計は朝6時前。
……春ちゃんの目覚ましの、5分前だった。

慌てて、飛び起きて……ズボンを履いていることを確認して、息をつく。



そして、ひどく動揺した。




夢だった?!どこから?!


混乱した頭では、何が現実なのかわからなくなっていた。

とりあえず、もう1回寝たらそれなりに……

そう思って、横になって布団をかけ直すと、その様子を春ちゃんに見られていたらしい。「おはよう」と声がかかって笑われた。

「お……はよう……」

おずおずと返すと、春ちゃんはゆっくりとわたしの方に寝返りを打った。
仰向けのまま布団の中で行儀よく背筋を伸ばすわたしに、訊ねる。


「……咲、どこら辺から夢だったと思う?」


いつでも。本当にいつでも、春ちゃんにはわたしの気持ちがお見通しなのだ。
そんなのわたしが聞きたいくらいだ。

よく分からなかったので、こう答える。


「……春ちゃんと喧嘩したところ」


こんなの、ほぼ願望だ。


だけれど、本気でそうだったんじゃないかと思ってしまうくらい、昨日の自分がわからない。

春ちゃんが、呆れたように笑いながら、ため息ついた。

「喧嘩はした。戻りすぎだよ。全部なかったことにしようとするな」

そう言うと、ペチッと、わたしの額を軽く叩く。

「いて」

じゃあ、どこから夢なんだ……?
考えていると、春ちゃんが真剣な目でわたしに向き直った。

「……昨日は悪かったと思ってるよ、ごめん、咲」

叩いたその手が、そのままわたしの頭を撫でる。
心地よくて、目をつむった。行儀よくしていた体が緩んでいく。

「……わたしも、ごめんなさい」

自然とでてきた言葉は、今度こそちゃんと、心からの謝罪だった。

「いいよ。これで仲直り」

春ちゃんが微笑む。わだかまりが消えて、ほっとした。もう少し寝られるはず。



でも。




まどろもうとするわたしを、春ちゃんが逃がしてくれるはずがない。



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