優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
「咲……なんで昨日いろいろ履かずに寝てたんだ?」
うああああ!!!
優にきかれて、叫びたくなる衝動を抑えると、布団の深いところに潜り込む。
穴があったら入りたい。それはそれは深くて狭い穴に、もう出てきたくない。
じたばたしていると、春ちゃんが少し楽しそうに追い討ちをかけてくる。
「おーい、咲ちゃーん。なんで昨日、下半身すっぽんぽ……」
「いーーーわないでー! それ以上聞かないでーー!!」
『いろいろ履かずに』って、優がだいぶオブラートに包んで聞いてくれていたのに、春ちゃんの方が容赦ない。
オブラート全部、剥がしに来るじゃん……!!
「春斗!」
見かねた優が手を伸ばして、春ちゃんの頭を引っぱたく。
「いった! 手加減……!」
「お前こそ加減しろ、ったく」
朝から寝室は騒がしい。
めそめそと泣き出しそうなわたしに、優が布団に潜り込んで声をかける。
布団を退けても良かったのに、そうしなかったのは、恥ずかしさで死にそうなわたしに配慮してくれたからかもしれない。
暗い布団の中で丸くなっていたら、優が抱きしめてくれた。落ち着いた声が、耳元に落ちる。
「……昨日、咲が寝る前にしたことは、別に悪いことじゃない。ひとりでできたなら、今日やるはずだった治療はパスでもいいかなと、俺は思ってる」
……治療、しなくてもいいの……??
意外な提案に、動揺していた気持ちが少しだけおさまる。
これ以上、恥ずかしい思いをしなくてもいいんだと思ったら、正直に口が動く。
「……1人で……した」
「最後までできた?」
「うん……。終わったら眠くなって……寝ちゃった……」
ぽつぽつと話していくと、優が頭を撫でた。
「それなら大丈夫。すまんな。生理終わったら、早乙女先生の検診の予約入れておくから、ちゃんと体の状態、診てもらおう。そこで大丈夫であれば、来月からは自分1人で昨日みたいにしてほしい。……家で俺と春斗がついてする治療は、卒業にしよう」
……卒業。
思いがけない言葉に、目を見開く。
ほっとしている自分と、なんとなく不安を感じている自分がいて、戸惑っていた。
大丈夫、というように、優にもう一度抱きしめられた。
複雑な気持ちを抱えたままで、早乙女先生の検診日はやってくる。