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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

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前回の検診から1ヶ月で、また、ここに来てしまった。待合室で長椅子に座りながらそわそわと体を動かす。
あんまりにも落ち着きがないから、春ちゃんに軽く肩を叩かれる。

「咲、大丈夫だから落ち着いて」

「でも……」

前回もその前も、足がパッカリ開く椅子に座らされて、……いろいろ恥ずかしい思いをして、気を失うようなことになっている。
今回もそうなっちゃうんじゃないかって、家を出る前から嫌だった。

長椅子に2人で腰掛けていると、白衣を着た優が現れた。

「お疲れ」

「お疲れ様」

「……帰りたいぃぃ……」

優は苦笑いしながらわたしの頭を1つ撫でて、わたしの隣に座った。

「なんとか家出てきたけど、ずっとこんな感じよ」

「無理もないな」

「……帰るぅぅ……」

立ち上がろうとしたら、今度は優に肩を押さえられて、ストンと椅子におしりが落ちる。

体のどこかを動かしていないと落ち着かなくて、今度は足をぶらぶらさせていた。

「何が怖い? 何が嫌だ?」

優に顔を覗き込まれて、顔をしかめながら小さい声で答える。

「……全部」

「早乙女先生は怖い?」

首を振る。早乙女先生は……怖くはない。

でもその横で春ちゃんが無言で頷いている。

「……春斗、お前には聞いてない」

優にばっさり切られてしまってかわいそうだったので、わざとらしくぶるぶる震える春ちゃんに、小さい声で尋ねる。

「……春ちゃん、早乙女先生、怖いの?」

「……怖い。とっても怖い。優もそう思わない?」

話を振られた優が、仏頂面のまま、

「思う」

とだけ答える。

わたしの両隣、思ったより2人が真剣に早乙女先生を怖がっているのを見て、少し笑ってしまった。
笑うと、さっきまで嫌だった気分とか、緊張していた気持ちが、少しだけ薄れる。

昔、何があったんだろう。
気になって、尋ねようとしたとき……。



「白河咲さん、診察室へどうぞ〜」

看護師さんに名前を呼ばれ、聞けずに順番が来てしまった。
今日は、診察室に入るのはわたしだけ。病院に来る前から3人で話して決めていたから、少し心細い。

診察室に入る前に振り向くと、春ちゃんが手を振りながら言った。

「待ってるから、行っておいで」

「ああ。ここにいる」

並んで座る2人に見送られて、わたしは診察室へと入っていった。


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