
優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
6
「……なぁ、春斗」
「んー?」
診察室に入っていく咲を見送って、その後姿が見えなくなった時。
春斗に声をかけた。
間延びした春斗の声は、いつも通りに響く。
少し騒がしい、病院の待合室。
通らない声で俺は、春斗に尋ねる。
「……あの話は、咲にしたのか?」
答えはわかっていた。でも今しかない。
そう思って、話を持ち出す。
「……ぼちぼちするよ……いまじゃないと思ってね」
気だるそうに、その話はするなと遠回しに言うような春斗の目に、俺だけが、危機感を覚える。
少しため息をつきながら、余裕がある瞳を追い詰めることにした。
「じゃあ、いつするんだ?」
長考の末に出た答えは、先延ばし一択のようだった。
「……年越すまでには」
迷いながら答えた春斗の声を、ピシャリと一蹴する。
「遅いと思う、俺は。……それに……こんなこというのはアレだが……間に合わない可能性だって充分あるだろ」
すかさず、春斗の目を覗き込む。
俺の目を避けて吐き捨てるように、春斗は行った。
「わかってるよ」
わかってないだろ。
心の中だけに留める声は、きっと春斗にも聴こえている。静かに険悪になっていく2人の雰囲気を察せる人は、この場にいない。
無言のままでいたら、咲を案内した看護師が、俺と春斗に声をかけた。
「咲さんのご家族の方、診察結果を伝えたいそうなので、診察室にお願いします」
目を合わせることなく、2人で看護師の後をついていく。
咲がこの雰囲気に気づかないわけないから、切り替えなくてはと思っていたがお互い無言のままだった。
「……なぁ、春斗」
「んー?」
診察室に入っていく咲を見送って、その後姿が見えなくなった時。
春斗に声をかけた。
間延びした春斗の声は、いつも通りに響く。
少し騒がしい、病院の待合室。
通らない声で俺は、春斗に尋ねる。
「……あの話は、咲にしたのか?」
答えはわかっていた。でも今しかない。
そう思って、話を持ち出す。
「……ぼちぼちするよ……いまじゃないと思ってね」
気だるそうに、その話はするなと遠回しに言うような春斗の目に、俺だけが、危機感を覚える。
少しため息をつきながら、余裕がある瞳を追い詰めることにした。
「じゃあ、いつするんだ?」
長考の末に出た答えは、先延ばし一択のようだった。
「……年越すまでには」
迷いながら答えた春斗の声を、ピシャリと一蹴する。
「遅いと思う、俺は。……それに……こんなこというのはアレだが……間に合わない可能性だって充分あるだろ」
すかさず、春斗の目を覗き込む。
俺の目を避けて吐き捨てるように、春斗は行った。
「わかってるよ」
わかってないだろ。
心の中だけに留める声は、きっと春斗にも聴こえている。静かに険悪になっていく2人の雰囲気を察せる人は、この場にいない。
無言のままでいたら、咲を案内した看護師が、俺と春斗に声をかけた。
「咲さんのご家族の方、診察結果を伝えたいそうなので、診察室にお願いします」
目を合わせることなく、2人で看護師の後をついていく。
咲がこの雰囲気に気づかないわけないから、切り替えなくてはと思っていたがお互い無言のままだった。
