テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

「じゃあ、また」

春ちゃんが、優に向かって軽く手を挙げる。

「あぁ。今日は帰り遅くなるかも」

「うん、わかった」

優は、すぐに仕事に戻らないといけないらしい。
その場から立ち去ろうとする優に、急いで声をかける。

「優、お仕事頑張ってね」

「おう」

優がわたしの頭を撫でる。
小児科の病棟の方へ、歩いていった。

春ちゃんは、優の背中を見送る前に、歩き出す。

「春ちゃん」

「んー? どうした?」

いつもののんびりした声とは裏腹に、春ちゃんは少し早足で歩く。

「……優と、なんかあったの?」

春ちゃんの歩く速度が少し落ちる。でも表情は見えない。

「なんもないけど……なんか変だった?」

振り向いた春ちゃんの、表情がいつも通り緩んでいたことに、ほっとした。

「いや、なんでもない!」

「そっか。……お昼、何にしようかね」

春ちゃんが、わたしの歩幅に合わせて歩きながら、呟いた。

気のせいだったかな。

そう思い直して、病院の外へ出る。
また来月かと思うと萎えてしまいそうな気持ちを抑えて、今日のお昼ご飯を考えることにした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ