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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

医者というこだわり、開業医の父。
辞めると考えたら、それはそれで頭をかすめる。
医者になるレールを捨てられなかった時点で、縛られていたということに今更気づく。

「春斗のことだ。春斗が決めたらいいと思う。俺は、変わらず春斗のそばに居る……っていうとなんか気持ち悪いけど、医者を辞めても友だちでいたい。ずっと俺の居場所だったから、それが自然」

また、兄と同じようなことを言われて、少しだけ笑ってしまう。
それにしても、優が『居場所』と言ってくれたことが嬉しかった。
父親が亡くなってからひとりになってしまった優の、孤独を少し薄めることができていたのかもしれない。

「……笑うなよ」

「ごめん、違うの。ありがとう、優」




……医者を辞めて教師になったことは、九州の家族に対して、事後報告になった。
久しぶりに、父親の怒鳴り声を聞いた気がする。
電話越しに、ぼんやりそんなことを考えていた。

勘当、という思ったより実家より絶縁される状態を言い渡されてから、兄とも母とも……もちろん父とも連絡を絶って、5年が経っていた。

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