優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第16章 3人の年越し
その日のうちに、兄と連絡をとった。
「春斗、元気だった? 」
5年ぶり…………。
携帯を持つ手が震えた。久しぶりの兄の声に、言葉を詰まらせる。
「……うん、元気にしてるよ」
「今、どうしてるの?」
何も変わらない、兄の声。
「いま……学校の先生してる。桜堂付属の学校で」
「そっか……よかった」
ほっと息を漏らす様な音が聞こえて、俺もそれを聞いて、息を漏らした。
兄は唐突に、呟くように言った。
「春斗、戻って来てくれないか?」
「え……」
優と同じことを言われて、返事に迷っていた。
ゆっくりと、兄が言葉を足していく。
「母さんの入院も決まって、実家の医院も続けて、父さんも俺もいっぱいいっぱいでさ……都合良いように呼ぶようで悪いんだけど……戻ってきてくれないか? ……多分……母さんも、長くないから」
長くない。
振り絞るように苦しそうな兄の声に、母の容態が想像より思わしくないことがわかる。
「……少し、考えてもいい? 俺、いま……優と優の妹と、3人で暮らしてるんだけど……」
隣の部屋では、咲が寝ている。
潜めた声をいっそう小さくすると、兄はその気持ちを汲んだように、そっと俺に尋ねた。
「その子が、心配?」
「うん……ごめん……やっと、安定してきたっていうか……」
ぎゅっと携帯を握りしめると、同じように胸が締め付けられる。多くを語らずとも、兄は何かを察していた。
「大丈夫。少し待つね。……父さんも、待ってると思うんだ。頑固だから、そんな姿微塵も見せないけど、わかるの。母さんの部屋から出てきたアルバム、こっそり見ててさ」
兄がおかしそうに話すものだから、俺も笑ってしまった。
もう何年も見ていない父の背中を思い出す。
背を丸めて、アルバムを静かに眺める父がありありと思い浮かんだ。
「わかった。また電話する。また何かあったら、携帯に電話かけて」
言いながら、俺は母さんの容態のことで電話がかかってくることがないように祈る。
「うん、そうする。……春斗も体、気をつけて」
「ありがとう」
短い電話だったが、充分だった。
……でも未だに、答えは出ていない。
「春斗、元気だった? 」
5年ぶり…………。
携帯を持つ手が震えた。久しぶりの兄の声に、言葉を詰まらせる。
「……うん、元気にしてるよ」
「今、どうしてるの?」
何も変わらない、兄の声。
「いま……学校の先生してる。桜堂付属の学校で」
「そっか……よかった」
ほっと息を漏らす様な音が聞こえて、俺もそれを聞いて、息を漏らした。
兄は唐突に、呟くように言った。
「春斗、戻って来てくれないか?」
「え……」
優と同じことを言われて、返事に迷っていた。
ゆっくりと、兄が言葉を足していく。
「母さんの入院も決まって、実家の医院も続けて、父さんも俺もいっぱいいっぱいでさ……都合良いように呼ぶようで悪いんだけど……戻ってきてくれないか? ……多分……母さんも、長くないから」
長くない。
振り絞るように苦しそうな兄の声に、母の容態が想像より思わしくないことがわかる。
「……少し、考えてもいい? 俺、いま……優と優の妹と、3人で暮らしてるんだけど……」
隣の部屋では、咲が寝ている。
潜めた声をいっそう小さくすると、兄はその気持ちを汲んだように、そっと俺に尋ねた。
「その子が、心配?」
「うん……ごめん……やっと、安定してきたっていうか……」
ぎゅっと携帯を握りしめると、同じように胸が締め付けられる。多くを語らずとも、兄は何かを察していた。
「大丈夫。少し待つね。……父さんも、待ってると思うんだ。頑固だから、そんな姿微塵も見せないけど、わかるの。母さんの部屋から出てきたアルバム、こっそり見ててさ」
兄がおかしそうに話すものだから、俺も笑ってしまった。
もう何年も見ていない父の背中を思い出す。
背を丸めて、アルバムを静かに眺める父がありありと思い浮かんだ。
「わかった。また電話する。また何かあったら、携帯に電話かけて」
言いながら、俺は母さんの容態のことで電話がかかってくることがないように祈る。
「うん、そうする。……春斗も体、気をつけて」
「ありがとう」
短い電話だったが、充分だった。
……でも未だに、答えは出ていない。