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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し

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気がつけば、忙しいままに時は過ぎて、大晦日になっていた。咲と春斗は冬休み、俺は病院の計らいで31日と1日を休みにしてもらっていた。年の離れた妹と暮らしていることは、院内に浸透している。

午前中から大掃除と、春斗とのおせち作りに疲れた咲は、夕食を食べてお腹がいっぱいになると、22時にはソファーに丸まるように寝てしまった。

「咲〜」

リビングのソファーでぐっすり眠る咲に、声をかける。

「んー…………」

「さーーきーーー」

春斗もやってきて、2人で咲の顔を覗き込む。
春斗が咲の頬を包み込んで、ふにふにと触る。

リビングはいつもあまりついていないテレビがついていて、それだけで大晦日の充分な賑わいが空間に満ちていた。

「ん……ねむい……」

薄らと目を開けた咲は、もごもごと唇を動かす。

「こんなとこで寝たら風邪引くよ、寝るなら歯磨きしてベッドだよ」

「んん…………」

「風邪引いたら元旦から病院連れてくぞ」

「やだ…………」

2人でひと通りの脅しみたいなものをかけてみるも、咲は完全にここで眠る体制に入っていて、なかなか動かない。

諦めた春斗は、部屋からブランケットを持ってくると、咲にかけながら呟いた。

「もー、困った。年越しなんてできたもんじゃないねぇ。でもまぁ……少しここで寝せといてあげようか……年を越す瞬間は、寝てても3人で居たいもんね」

言いながら、春斗は愛おしそうに咲の頭を撫でる。

「寝てる咲見てると、ほっとするんだよね。ぐっすり眠れるようになったんだって。少しずつ、傷が癒えてきたのかなって。……本当に良かった」

独り言のように呟きながら、少しだけ涙を溜めている。
その横顔を見ていたら、春斗のいま抱える葛藤がひしひしと伝わってくる。

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