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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第16章 3人の年越し


「……なあ、春斗」

「ん?」

「久しぶりに飲むか?」

冷蔵庫からビールを取り出しながら、ニヤリと笑う。飲めば何か変わるわけでもないが、何となく今日はそんな日のような気がした。

「……いいの? 旅行以来じゃない?」

「……そんなに飲んでないか?」

「飲ませてくれなかったのに何言ってんのさ」

GOサインを出さずにいたら、数ヶ月ぶりになってしまったらしい。意外と律儀なところはあって、春斗は1人で飲まない。

「すまんな。飲みたかったか?」

プルタブを引いてグラスにビールを注ぐと、リビングのローテーブルに2つ置く。
春斗はキッチンの片付けを終えると、おつまみを持ってやってきた。

「別にぃ〜……でも年越しの酒は魅力的だね」

泡が消えないうちに、2人で乾杯をする。

「うわ、おいしい……けどなんか、体がふわふわするわ」

笑いながら言う春斗の頬が、既に赤くなり始める。

「ゆっくり飲めよ」

「わかってるって〜!」

春斗はちびちびと舐めるようにビールを飲みながら、満足そうに笑った。

「早いね、もう大晦日だ。今年は……楽しかったなぁ……」

呟きながら、春斗は賑やかなテレビの画面を何気なく見ていた。

「去年はさ、たしか優、当直でさ」

可笑しそうに笑いながら春斗が言う。

「あー、そうだそうだ。元旦が当直明けで、それもなかなか帰れなくてなぁ」

思い出して、苦笑いを浮かべた。
なかなか大変な1日だった。大晦日と言えど、入院生活を余儀なくされている子どもたちも多く、普段は夜泣きの無い子も寂しがって泣いていた。
夜の読み聞かせは大盛況で、日付が変わって少ししてからも引っ張りだこだった。

「でも、子どもはかわいいし放っておけないんだよね」

春斗が思い出してくすくす笑う。

「そうだなぁ……好きでこの仕事なわけだし」

言いながら、もう1本、ビールの缶を開ける。

今日も病院で過ごす子ども達のことを思って、少しだけ胸が痛む。この仕事に就いてから、ふとした瞬間に仕事のことを考える。
そうして同時に、いつも思うことがあった。

「春斗がいなかったら、この生活は回らなかったなぁ」

酒を飲んでいたからか、ポツリ、と呟いていた。
幾度となく思ったことを、こうして正面から春斗に伝えることはあまりなかった。

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