優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第4章 それぞれの午後7時
この男も、母も憎い。
そんな気持ちが湧いて、痛みに息ができなくなりながらも、男を睨みつけていた。
一瞬、気圧されたように身を引いたその隙に、立ち上がって玄関のドアノブに手をかける。
殺されたくない。逃げようと手に力を込めるも、
「んだよ、今の目は!」
後ろを向いた瞬間に、肩を捕まれ、またよろめく。相手の足元がふらふらしているのも同じだった。
酒を飲んで足元が覚束ないのであれば……
わたしはお腹の痛みに耐えながら、すぐさま体制を整えて、向かってくる男に、体当たりをかます。
思った通り、男はよろめいて、鈍い音をたてると、その場に倒れ込んだ。
いつもよりデタラメな力の強さだったが、酒が回ってきたのか一度倒れると立ち上がるのに時間がかかっている様子だった。