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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第17章 願いごと

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外の寒さに首を竦めながら、優と2人、神社までの道を歩く。どこか厳かな雰囲気に包まれた住宅街は静かで、わたしと優が歩く音だけが響く。

新しい年を迎えた空気を、初めて体験する。
静けさに包まれた街も、案外良いんだなぁと思いながら、ゆっくり歩いた。

「春ちゃん、大丈夫かなぁ」

ふと気になって、呟く。ベッドでダウンする春ちゃんの後ろ姿が頭に浮かんだ。

「大丈夫だろう。治らないものではないから」

優も同じ姿を想像したのか、苦笑いを浮かべながらそう言った。
わたしが寝てしまったあと、2人きりの時間も久しぶりだったんだろうなと思っていた。

「昨日、2人で何話してたの?」

何気なく訊いたら、少し間が開いた。優の顔は前を向いていて、窺い知れない。

「……まぁ、いろいろだ。久しぶりだったしな、酒飲むのも」

「ふーん」

気のない返事をしながら、神社までの道を歩いた。


鳥居の前まで来ると、思った以上の人が参道を埋めていた。

元旦の初詣。それも初めてのことで、鳥居の前で足がすくんだ。

「大丈夫か? 意外と人多いから」

差し出された手を、素直に取ることができない。
少し躊躇って……優のコートの裾をぎゅっと握りしめた。その様子を見て、優が横顔だけでふっと笑う。

夏のように、直ぐにその手を取れない理由が、上手く浮かばない。だけれど、笑った優の横顔からそれでいいんだと少し安心した。

わたしは俯いて、靴のつま先を見つめて……周りを見渡してから優に言った。

「屋台、出てるんだね」

夏祭りほど数は多くないけれど、いくつか屋台が出ていて、お祭りの雰囲気を思い出す。

「お参りしてからな」

言いつつ、優がゆっくりと歩き出す。
わたしははぐれないように、もう一度ぎゅっと優のコートの裾を握った。



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