優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第17章 願いごと
「咲。3人で暮らせるのは、ずっとじゃないかもしれない」
「……え?」
なんでもないことのように放たれたその一言が、理解できずに優の顔を見る。
優は真っ直ぐにわたしの目を覗き込んだ。
優の瞳に写ったわたしが、揺れている。
ゆらゆらと、頼りない。
穏やかだった気持ちがざわざわと音を立てて、落ち着かなくなっていく。
「春斗が、九州の実家に帰ることになった」
「どういう……ことなの? ……なんで?」
優は、顔色を変えずに、そっと話し始めた。
ずっと前から、決まっていたことなんだと悟る。
春ちゃんのお父さんのこと、お兄さんのこと、それから……病気のお母さんのこと。
優はわたしの理解が追いつくように、ゆっくり話してくれているようだった。
それでも、混乱に飲まれず話を聴くのに精一杯だった。
そうしてようやく、春ちゃんの気持ちを想像する。
……どれだけ苦しい思いをして、ここで先生をしていたんだろう。
春ちゃんが選んで先生をしていることは、前にも聞いた事があったけれど、その背景には色んなことが複雑に絡み合っていて……。