優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第17章 願いごと
わたしは、立ち上がっていた。
居ても経ってもいられない。
早く、春ちゃんに会わないと。この気持ちだけがせり上がってきて、走り出していた。
「咲……!」
帰らなきゃ。
そう思った。
春ちゃんと優と、3人でいられる時間は、長くない。春ちゃんは今、どんな気持ちで、一人でいるんだろうか。
「咲! 走るなって!」
そうは言われても、止まれなかった。
優が後ろから駆け足で追いついて、わたしの腕をしっかり掴んだ。
「ちょっと落ち着け!」
2人で息を切らして、わたしは知らないうちに、目にいっぱいの涙を溜めていた。
突然走り出したわたしに、優は少し動揺していたようだった。
でも、話したことを後悔しているような表情ではない。
もう2人で何度も話し合っていたんだ……ずっと前から……。
わたしだけ、何も知らないで、神様にお願いなんかして……。
心の中が、別の何かでぐちゃぐちゃになるその前に、悲しい気持ちが、そんな心の全てを飲み込んでいく。
「……だってもう、3人でいられない……」
声を振り絞る。
何度も落ちそうな涙を揺らしたまま、優の手を振り切って、家までの道を走った。