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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第17章 願いごと

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告げてしまったら咲の精神が揺らぐのは、わかっていたことだった。
ドタバタと、玄関から急ぐような音がする。


「春ちゃん……!」

息を切らして、リビングに入ってきた咲を見て、優が伝えてくれたことを知る。
なんでもないように、コーヒーを淹れながら、咲に尋ねた。

「お帰り、咲。初詣はどうだった?」

わざと、落ち着いたそぶりをした。
俺がそうしていないと、咲の心はきっとすがるところがなくなる。



「……春ちゃん、いなくなっちゃう」




力なく呟いた咲が、マフラーも取らずに、俺に抱きつく。

「おっとっと……と、咲」

バランスを崩して、零しそうになったコーヒーを、そっとテーブルに置くと、咲の背中に手を置いた。
咲のマフラーを外していく。
いっぱいの涙が、目のふち、ギリギリのところで落ちるのを我慢している。



「ただいま」



少し遅れて帰ってきた、優を見る。
優も少し、息を切らしていた。
俺を見据えて、一つだけ頷いたのを見て……全てを了解する。

「話してくれたんだね……優、ありがとう」

きっと迷いながら、言葉を選んで伝えてくれたんだろう。



『優が伝えてよ……咲に』
ずっと口に出来ずに、大晦日の夜、俺が酔った調子で言ったことを、優が翌日には実行に移した。

それだけ早く伝えた方が良いと、優はずっと思っていたのかもしれない。

この生活の終わりを意識した咲が、少しでも心を落ち着かせることができるように。

いまはその、混乱の最中にいるわけだけど……。


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