優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第17章 願いごと
4
告げてしまったら咲の精神が揺らぐのは、わかっていたことだった。
ドタバタと、玄関から急ぐような音がする。
「春ちゃん……!」
息を切らして、リビングに入ってきた咲を見て、優が伝えてくれたことを知る。
なんでもないように、コーヒーを淹れながら、咲に尋ねた。
「お帰り、咲。初詣はどうだった?」
わざと、落ち着いたそぶりをした。
俺がそうしていないと、咲の心はきっとすがるところがなくなる。
「……春ちゃん、いなくなっちゃう」
力なく呟いた咲が、マフラーも取らずに、俺に抱きつく。
「おっとっと……と、咲」
バランスを崩して、零しそうになったコーヒーを、そっとテーブルに置くと、咲の背中に手を置いた。
咲のマフラーを外していく。
いっぱいの涙が、目のふち、ギリギリのところで落ちるのを我慢している。
「ただいま」
少し遅れて帰ってきた、優を見る。
優も少し、息を切らしていた。
俺を見据えて、一つだけ頷いたのを見て……全てを了解する。
「話してくれたんだね……優、ありがとう」
きっと迷いながら、言葉を選んで伝えてくれたんだろう。
『優が伝えてよ……咲に』
ずっと口に出来ずに、大晦日の夜、俺が酔った調子で言ったことを、優が翌日には実行に移した。
それだけ早く伝えた方が良いと、優はずっと思っていたのかもしれない。
この生活の終わりを意識した咲が、少しでも心を落ち着かせることができるように。
いまはその、混乱の最中にいるわけだけど……。
告げてしまったら咲の精神が揺らぐのは、わかっていたことだった。
ドタバタと、玄関から急ぐような音がする。
「春ちゃん……!」
息を切らして、リビングに入ってきた咲を見て、優が伝えてくれたことを知る。
なんでもないように、コーヒーを淹れながら、咲に尋ねた。
「お帰り、咲。初詣はどうだった?」
わざと、落ち着いたそぶりをした。
俺がそうしていないと、咲の心はきっとすがるところがなくなる。
「……春ちゃん、いなくなっちゃう」
力なく呟いた咲が、マフラーも取らずに、俺に抱きつく。
「おっとっと……と、咲」
バランスを崩して、零しそうになったコーヒーを、そっとテーブルに置くと、咲の背中に手を置いた。
咲のマフラーを外していく。
いっぱいの涙が、目のふち、ギリギリのところで落ちるのを我慢している。
「ただいま」
少し遅れて帰ってきた、優を見る。
優も少し、息を切らしていた。
俺を見据えて、一つだけ頷いたのを見て……全てを了解する。
「話してくれたんだね……優、ありがとう」
きっと迷いながら、言葉を選んで伝えてくれたんだろう。
『優が伝えてよ……咲に』
ずっと口に出来ずに、大晦日の夜、俺が酔った調子で言ったことを、優が翌日には実行に移した。
それだけ早く伝えた方が良いと、優はずっと思っていたのかもしれない。
この生活の終わりを意識した咲が、少しでも心を落ち着かせることができるように。
いまはその、混乱の最中にいるわけだけど……。