優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第18章 揺れる日々
俺の、気持ち……??
頭が真っ白になる。
一瞬で巻き戻った記憶の中、俺は一度も、咲に話さなかったのだ。咲の気持ちを受け止めようとするのに必死で、気づいてなかった。
自分のこと、だったのに。
考えていないわけではなかった。当たり前のように、実家に帰ることを受け入れて、咲の体調を心配して……。
「春ちゃんも優も、わたしのこと、すごく心配してくれてるの、わかる……」
伝わっている、でも。
「気持ち、聞きたいの。春ちゃんがわたしに訊いてくれたように、寂しいとかつらいとか……怖いとか……」
……伝わっていない、いや、伝えていないことがあったんだと思い知る。
『自分の気持ちも大事にしろよ』
……あの日、優から言われたことを思い出していた。なんでそんなことを言われたのか、分かっていなかったのだ。
九州へ帰ること、咲や優との暮らしを離れることは仕方ないことだと思っていた。悲しい、寂しいという感情は、二の次だった。
咲が、つらい気持ちを乗り越えられるように寄り添う。それしか考えていなかった。
でも、咲にこうしてきかれて気づく。
俺は、自分の気持ちに向き合えていなかったんだ、と。俺がどう思っているのかを、咲に伝えることで、咲の気持ちに寄り添えることに、ずっと気づいていなかった。
……深い深い、後悔の波がどっと押し寄せてくる。
込み上げてくる何かを抑えながら、ゆっくりと吐き出すように、つぶやいた。
目を瞑りたくなるくらい不格好で、醜くて、でもそれは、ずっと心の奥底に押し込めていたもの。
これが、咲を前にして初めて表にした感情だった。
「……つらいよ。置いていけないと思った」