優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第19章 エピローグ
生真面目に整った文字が、便箋3枚に渡って並んでいた。書いては消してを繰り返したような跡を指でなぞった。
久しぶりに、手紙をもらった気がする。
「……ふふ。遠くへ行く旅行、楽しみだったかな」
飛行機の中で、手紙を読み返した。
九州は暖かかったけど、関東はまだ微妙に肌寒いらしい。
桜は先週、見頃を迎えたという。
天気の良い窓の外を眺めて、ポケットの中を探った。三毛猫のチャームがついた鍵を久しぶりに取り出すと、咲が初めてあの家に来た時のことを思い出した。
戸惑って泣いた咲にアイスを食べさせたことは、ほんの2年前のことなのに。
家から離れたら、遠い昔のことのように感じてしまうけれど、記憶は色褪せなかった。
『ただいま』の場所は、いくらあっても良いのだ。
もうひとつの、帰るべきところに帰ってきた。
そんな気持ちで、着陸した飛行機の中でそっと手紙を折りたたんで、胸のポケットにしまい込んだ。