優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第19章 エピローグ
「あら、優、久しぶり〜!」
玄関から聞こえた声に、持っていたトーストを落としかけた。
この声は…………紛れもなく。
走って出ていくと、にっこりと春ちゃんが笑って、そこに立っていた。
「春斗……!」
「春ちゃん……?」
信じられなくて、なんて言ったらいいか分からなかった。
「うん、そうだよ。顔忘れちゃった?」
春ちゃんの冗談に、わたしは首をぶんぶん振る。
1年前に出ていった日の朝と、全く同じような格好でそこにいる春ちゃんに、一瞬だけ違和感を覚えたが、
「あれ、咲! 学校、今日は休みでしょう?」
その一言で、全てが吹っ飛ぶ。
春ちゃんはこの家に居なくても春ちゃんで、お母さんだった。覚えていなくてもいいような、わたしの模試の日まで把握している。
答えられずに今朝の優とのやり取りを思い出して笑って、言っていいのか迷って優を見た。
わたしの視線を追った春ちゃんが、イタズラ好きの笑顔になる。
「さては、優がやらかしたな」
楽しそうに笑っている顔も、何もかもが久しぶりだった。