優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第19章 エピローグ
「……なんで連絡入れないんだ」
ため息混じりに優が言った。
呆れているように見えて、言葉の端に喜びが滲んでいる。
「うーん、帰るって言ったらそわそわしちゃうかと思って」
「だからって……」
それ以上の言葉を飲んで、春ちゃんを見た。
「……まぁ、おかえり」
「ふふ、ただいま」
満足そうに、春ちゃんが言った。
優は照れ隠しをするように、さっさとキッチンへ去る。コーヒーを淹れにいくらしい。
ぽかんとして玄関に立ち尽くすわたしに、春ちゃんが笑いかけた。
「ただいま、咲」
春ちゃんが、わたしの頭を撫でる。
「……おかえりなさい、春ちゃん」
もう何度も繰り返した言葉を、噛み締めるように呟いた。
相変わらず、触れられた体温にほっとして目をつぶる。1年ぶりなのに、体はその温度をしっかりと覚えていた。