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龍と鳳

第12章 【思い出編】Memories

『龍の卵か……どうした? そんなに泣いて』

念話だから声に出して言われたわけじゃないんだけど。
優しい響きが届いて、オイラは緋い大きな龍の方へ移動しようとした。

その時のオイラはまだ形さえ成していないエネルギーの珠だ。濁りの奥で消えてしまった美しい光が尊くて泣いたなんて、説明できる筈もない。

消えてしまった光が目の前に現れたのが嬉しくて。
じたばたモゾモゾしながら震えているうちに、フッと躰が楽になった。

『お、孵った。やっぱり龍だ。おいで』

大きな頭が近づいて目の前ににゅっと鼻先が来たから、そこに乗った。
鼻筋をよちよち登ってると緋龍が笑う。

『ダハハッ、くすぐったい。ハハハハッ』

朗らかな響きを放つ度に緋い粒子がこぼれて、暗くなっていた空が明るくなる。
眉間を抜けて角の間に納まると、そこはとっても安心で。
これが正解だ、って感じがした。
ふさふさした鬣に潜り込むと、もう何もかもこれでいいんだ、と思えた。

『……おい、寝るな。おーい、ちび?
起きろ、俺はお前の親じゃないよ』

オイラ、気持ちいい。
ここに居る。

まどろみながら想うと即座に伝わる。

『え~。うーん、まぁ、一旦お社に連れてくか』

総じて龍はあまり物事を難しく考えない。
緋龍の頭に乗ったまま、オイラは空から大地に向かって降りて行った。

それが、今から300年ほど前。
徳川が日ノ本を治めていた時代の話。





『おお、よう来たのぅ。
これは二形(フタナリ)じゃな。
ん~、そうか、そうか、優しい子じゃの。
お前が見たのはイノチが還ってゆく様。
何もおかしなことではない』

お山の神様はオイラを見てにこにこと目を細められて、言祝ぎをくださった。

『根幹が孔雀の羽のように美しき青じゃ。
長ずれば慈悲の心を持つ善き龍となろう。
天空に満ちた慈しみを持ち帰り、地に在る悲しみを和らげる存在に相応しい。
天と地を繋ぐ良き綱となることじゃろう。
昇龍を頼るがよいな。
世話をしてやりなさい、何事も修行じゃ』

『はぁ……承知いたしました。
子育てをする龍なんて聞いたことないですけど。
神様がそのように仰るのなら。
名は何と?』

『そうじゃな……智、と』

オイラは緋龍の頭の上で会話を聴いてた。

サトシ。
オイラの名前はサトシだ。
へへっ。

嬉しくてじたばたしたら、また緋龍がダハッと笑った。

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